薬屋のひとりごとに登場する緑青館妓女、鳳仙(フォンシェン)。
作中に登場する現在の彼女は、病気に侵され見るも無残な姿で眠りつづける人物として登場し、ある人物に身請けされたあと最期を迎えます。
今回はそんな鳳仙の人物像や過去から現在までたどった波乱の人生をくわしく解説していきます。
・鳳仙はどんな人物?
・鳳仙の死因(病気)はなに?
・鳳仙の過去の過ちとは?
・鳳仙の最後はしあわせだったの?
こんな疑問についてくわしく書いてます。
*この記事ではネタバレを含む内容がありますので気になるかたはご注意を!
【薬屋のひとりごと】鳳仙は花街・緑青館の人気妓女だった
いまから17年前、花街の妓楼・緑青館の人気妓女だった鳳仙。
母親が妓女だったこともあり幼い頃から花街で育ち、やがて見習い(禿かむろ)として妓女のいろはを学んだ彼女。
鳳仙は客にこびない誇り高き妓女
さいわい容貌に恵まれ、将来を大いに期待されていた鳳仙ですが、持ち前のプライドの高い性格が災いし、客に媚びることも一切なく、妓女としてはやや問題のある女性でした。
あろうことか、客に対して見下すような目で見たり、楽しませようという振る舞いは一切せず、妓女としては異質な存在だった鳳仙。
鳳仙は碁の名手
ところが、一部の好事家(いわゆる変わり者好き)からは絶大な人気を誇り、碁や将棋が得意という知性派な一面をもっていたことから、みるみるファンが増え瞬く間に人気妓女へと駆け上がっていきました。
とりわけ碁の腕前はピカイチで、ちまたでもうわさの名手と彼女の人気はますます高まるばかり。
彼女の変わらぬ接客態度には眉をひそめながらも、さすがに緑青館でも一目置かれる存在となっていたのです。
【薬屋のひとりごと】鳳仙の死の原因は梅毒
現在の鳳仙は、緑青館の離れにひっそりたたずむ一室で、まるで隠されるように病で床に伏せています。
歳は40代ですが、横たわる彼女の姿はすでに老婆のようで、病に侵され鼻はなくなり全身の肌はボロボロ、もはや意識すらまともではない状態で、ほとんど廃人同然です。
彼女が患っているのは「梅毒(ばいどく)」という病気。
鳳仙が患った梅毒とはどんな病気?
梅毒とはいったいどんな病気なのかと言うと、性感染症のひとつで性病の代表みたいな病気です。
現代でも、梅毒とおなじ性病でよく名前があがるのが、「淋病(りんびょう)」。
若い世代で流行しているという話もよく聞きますが、これらの病気にかかるもっとも多い要因は、不特定多数の異性との性交渉です。
梅毒についてもっとくわしく知りたいかたはこちら
日本でもかつて江戸時代頃に、おもに遊郭などで遊女の間で爆発的に流行し、梅毒感染が猛威を振るい多数の死者を出したという記録が残っています。
その後、特効薬となるペニシリンの開発と医療が発達したことで、現在では死亡率が大幅に激減しています。
この病気は、鳳仙のように段階的に徐々に体を蝕んでいく症状が現れます。
鳳仙は末期のようす
この時代でもどうやら薬や治療法はあるようですが、鳳仙はあまりまともな治療を受けられていないように見受けられます。
おそらく原因は、高額な治療費が払えないからでしょう。
後で解説しますが、これには鳳仙の過去の過ちが大きく関わっています。
なぜ鳳仙は梅毒にかかったの?
梅毒については先に解説したように、不特定多数の異性との性交渉で感染する場合が多い病気です。
人気妓女だった鳳仙も同じく、過去に犯したある一件の代償として、何人もの客に身体を売る羽目になったからです。
つまり、お世話になっていた緑青館に多額の損害を負わせてしまったためです。
よく言われる「身体で払いな!」ってやつですね。
では、鳳仙が緑青館に負わせた損害とはいったい何なのでしょうか?
話は17年前にさかのぼります。
【薬屋のひとりごと】鳳仙と羅漢のなれそめと裏切りの代償
当時は飛ぶ鳥落とす勢いで人気を誇る妓女だった鳳仙。
あいかわらずのドS接客で信者と化した上客連中を、手のひらで転がしていました。
得意の碁の勝負も喜々として相手を打ち負かしていた鳳仙。
あるとき、運命的な出会いがやってきます。
2人の出会いは緑青館
鳳仙と羅漢の出会いは、緑青館で碁の勝負をしたのがきっかけでした。
当時、将棋の腕前では軍部で敵なしと自負していた羅漢。
「ちまたでうわさの碁の名手とやらの腕前がどんなものかためしてやろう」と軽い気持ちで向かった緑青館。
羅漢にとっては自分をてこずらせる相手がもう見当たらず、やや天狗になっていた節がありました。
彼にとっては持病のせいで、酒も女も遊びにもさして興味がわかず、唯一将棋だけはのめり込めた娯楽で、天性の才もあってメキメキ実力が上がっていったのでした。
ちなみに彼の持病とは、生まれつき人間の顔を区別することができないという「先天性相貌失認」を患っていて、彼からすれば他人の顔はみな碁石か将棋の駒に見えるのです。
そのためどんなに美人だろうが、近しい人間であろうと、見分けることができないため、他人に対して興味がわくはずがなかったのです。
そんな羅漢があるとき、仲間の勧めで対決することになったのが、碁の名手・鳳仙というわけでした。
お手並み拝見とばかりに、勝ち確モードで向かった一戦。
結果は惨敗!
羅漢は見事に鳳仙にしてやられてしまいます。
彼にしてみればまさに「青天のへきれき」とでもいった感覚だったのか。
思わず笑いがこみ上げるほどだったのです。
鳳仙に一目ぼれした羅漢は恋に落ちる
自信満々だった自分の見事な負けっぷりに、もう笑うしかない。
むしろ初めての経験に清々しさすら覚えるほどで、一気に鳳仙に興味がわく羅漢。
すると、不思議なことに彼にははっきりと鳳仙の顔が見える!
まるで感じたことがない感覚。
羅漢が鳳仙に恋した瞬間でした。
原作でははっきりと“恋”とは描かれていませんが、どっからどうみても恋に落ちたと言っていいでしょうw
「彼女の顔が分かる!どんな表情で何を思っているのかが感じられる♪」
あいにくの鳳仙のほうは、相も変わらず無表情で、むしろ手加減されたのではと思いやや不機嫌に。
誰かに似ていますよね♪
このことがきっかけで、羅漢は鳳仙と対決するためだけに何年も緑青館に通いつめます。
やがて、鳳仙も羅漢に心を許し、2人は打ち解け心を通わせるようになっていきます。
鳳仙の思惑と羅漢の決断
ところが、ある大店から人気妓女の鳳仙を高額で身請けしたいという話が持ちあがります。
その頃、あまりの人気でなかなか指名ができなくなっていた鳳仙に、なんとか予約して会う機会を作っていた羅漢は、焦りを感じます。
身請けされれば、二度と鳳仙に会うチャンスはない。
出来れば自分が身請けしたいが、とても払える額ではない。
身請けの期日は迫ります。
羅漢の気持ちを察してか、鳳仙にとっても心はすでに羅漢のほうへ傾いています。
「行きたくない、このまま彼と一緒にいたい・・・」
ここで、身請けされる妓女にとってはタブーな行為、禁断の切り札を行使する決断をする鳳仙。
あとは羅漢の覚悟にゆだねたのです。
裏切りと知りながら・・・超えた一線
鳳仙の思惑をくわしく解説します。
まず、身請けされる妓女は身体を売っていない“処女”であることに価値が生まれます。
というのも、言い方が女性に対して少し失礼ですが、ほかの男の手がついていない「新品がほしい」というブランドに大金を払う価値があるというのが前提です。
とすれば、一度でも経験がある妓女には価値がないという判断がなされます。
この解釈を逆手に取った鳳仙は、「自分の価値が下がれば身請けの話は破談になる」と考えます。
つまり、誰でもいいわけではなく羅漢になら抱かれて、あわよくば身籠れば一緒になれて一石二鳥では?と思い至るのです。
あとは本人(羅漢)の覚悟次第だと・・・
こうして鳳仙は羅漢に賭け勝負をもちかけ、こちらの意図を彼に汲み取らせようとしたのでした。
「勝負に勝てば何でも好きなものを与える」
すぐさま鳳仙の思惑を察した羅漢は覚悟を決めます!
結果は2人の望んだとおりに。
濃密な一夜を過ごし一線を越えた2人は、無事既成事実を作ったことで明るい未来を想像していました。
運命のいたずら?すれ違った2人
これで鳳仙の価値は下がり、羅漢が身請けできる額になり、いずれは一緒になれると2人は疑いもせず安心していました。
ところが、タイミング悪く羅漢の身内のある人物の失態で、一族存亡の危機という事態に!
父親からほとぼりが冷めるまで遠方に遊説して身を隠すようにと羅漢に指令が下ります。
せっかく愛する人を手に入れたのに、しばらく離れ離れに。
後ろ髪引かれながら、羅漢は鳳仙になるべく早く戻るからと伝え、彼女のもとを去ります。
しかし、いくら待っても羅漢は戻ってきませんでした。
やがて3年経ち、やっと帰還し鳳仙のもとに向かった羅漢は、驚愕の事実を知らされます。
鳳仙はもういないと。
残された鳳仙と一人娘
羅漢との一夜を過ごしたことで、鳳仙はなんと身籠っていました。
当の羅漢はいないものの、2人の絆の証となった我が子を無事出産した鳳仙でしたが、いくら待っても羅漢は現れない。
徐々に不安が鳳仙の心を染めていきます。
さらに、高額の身請け話を破談にされ、信用を失い経営も傾くほどの大損害を被った緑青館楼主は怒り心頭!
鳳仙の裏切り行為を徹底的に糾弾し、「身体で払ってもらう」とばかりに安価で何人もの客の相手をさせ、彼女を酷使したのです。
これが原因で鳳仙は心を病み、挙句に梅毒を移され心身ともにボロボロになっていったのでした。
一人娘と2人、先も見えないまま、羅漢に捨てられたと思った彼女は、すでに生きる希望すら失っていました。
裏切りの代償/妓女の末路
徐々に身体を梅毒が蝕み、客を取ることもできなくなった鳳仙は、緑青館の離れに隔離同然の扱いでろくな治療も受けられないまま、残された命を削る日々。
やがて、病状が進み知性も失った彼女は、自分が誰であるかも娘の存在すら分からなくなっていました。
ただ、碁を打つことだけは身体が覚えているのか、人知れず碁石を動かすのがかつて名手とまで言われた名残なのか。
【薬屋のひとりごと】緑青館で十数年ぶりに再会した鳳仙と羅漢
あれから17年経ち、鳳仙の娘は後宮で手腕を発揮しています。
おそらくお気付きのとおり、羅漢と鳳仙の間にできた一人娘とは、猫猫のことでした。
猫猫が我が娘だと知った羅漢は、娘だけでもと永い間準備を進めていましたが、こともあろうにある宦官が横からかすめ取ってしまった。
なんとか奪い返そうと、その宦官に近づき機会をうかがっていました。
幸運にもそのチャンスは娘のほうからやってきたのです。
「今度こそはもう失わない」と、娘と直接対決に臨む羅漢でしたが、娘のほうが一枚上手でした。
鳳仙譲りの策士ぶりで、猫猫は羅漢に緑青館の三姫の一人を身請けさせようと企んでいたのでした。
勝負に負けた羅漢は、娘の頼みを断り切れず、言われるがまま妓女を身請けすることにしますが、ここでビッグサプライズが!!
このシーンは涙なしでは語れない、当作屈指の名シーン。
くわしくはこちらの記事で解説しています。
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2人を引き合わせたきっかけは猫猫だった
結果として、2人を引き合わせたのは娘の猫猫だったという出来すぎた話ですが、これで羅漢に対する印象が180度変わりましたね。
羅漢あかんでしたが、なんやええオヤジやん♪
羅漢が身請けしやっと2人は結ばれる
かいつまんで言うと、羅漢は梅梅を身請けするつもりでしたが、梅梅は彼の本心を理解していて、鳳仙の居場所を教えます。
羅漢は鳳仙と10数年ぶりに再会し、彼女を身請けします。
羅漢を慕っていた梅梅ですが、自分の気持ちを押し殺し、羅漢の気持ちを汲んだ彼女もまた、ええ女です!
鳳仙のその後
羅漢にとっては、鳳仙の姿は今も変わらず昔のまま。
あの時の絶望から一度はあきらめながらも、娘の存在を拠り所として一途に一人の女を思い続ける。
なんだかドラマがありますよね~。
晴れて一緒になれた鳳仙と羅漢は、昔のようになかよく碁をして過ごしたようです。
彼女の命が尽きるまで、おだやかに時を過ごしたあと、身請けから1年後に鳳仙は亡くなりました。
きっと2人は失った17年間を取り返すくらいの幸せを感じたんでしょうね。
まとめ:【薬屋のひとりごと】鳳仙の死の原因となった過去の過ち|羅漢との関係と身請け
今回は鳳仙の人物像や過去から現在までたどった波乱の人生、そして羅漢や猫猫との関係をくわしく解説しました。
個人的には鳳仙と羅漢の再会のエピソードが、当作で一番好きです。
彼らの背景や心情などを考えると、最後の結末はグッとくるものがあります。
猫猫のあの魅力的な個性は、鳳仙のDNAがまちがいなく継承されていますよね♪
鳳仙、素敵な女性だったと思います。