今回は、作中で登場する翠苓や子翠を動かしていた黒幕、母・神美(シェンメイ)について解説します。
神美は名持ちの名家「子の一族」本家の息女で、先帝の上級妃として華やかな人生を送るはずでした。
しかし、彼女は死の間際にみっともなくあがくようすがまるで“小物”と同情されるほどあわれな最期を迎えます。
彼女にいったい何が起こったのか?神美とは・・・
*この記事ではネタバレを含む内容がありますので、気になるかたはご注意を!
【薬屋のひとりごと】神美(シェンメイ)の正体
神美は現皇帝の代に上級妃(淑妃)となった楼蘭妃の母です。
もともと彼女自身も先帝時代の元上級妃で、現在は高官・子昌(シショウ)の妻です。
名家「子の一族」の令嬢だった神美
北方領地の地方豪族で、名門「子の一族」の本家の息女として生まれた神美。
一族の長の娘として何不自由なく育った彼女は、容姿にも恵まれちやほやされてきたこともあり、自分は“一族の誇り”だと感じ始めます。
どこまでも高いそのプライドが、いずれ彼女の急所となるとも知らず・・・
そんな彼女も年頃になり、ほどなく次期当主となる結婚相手として、有能さが買われ養子となった分家の子昌と婚約します。
ところが、彼女に転機がおとずれます。
後宮入りで人生バラ色♪のはずが・・・
先帝の妃として後宮入りの話が決まり、「皇帝に見初められた」と彼女にとってこれは願ってもないチャンス。
これにより子昌との婚約は一旦白紙となります。
よろこび勇んで後宮入りした彼女は、上級妃となった自分は当然先帝からの寵愛を受け、子を成しいずれは皇后になるものと確信していました。
しかし、いくら待っても先帝のお通りはなく・・・
焦る気持ちと絶対的な自信の間で揺れ動くなか、あろうことか先帝は自分ではなく、侍女に手を付け、子を身籠らせてしまったのです。
神美(シェンメイ)を襲った悲劇!先帝と大宝の存在
先帝が手を付けたその幼女は、名を「大宝(タイホウ)」と言いました。
大宝は「子の一族」で神美の親戚にあたり、お付きとして後宮入りした幼い侍女でした。
幼女だったにもかかわらず、先帝のお手付きで子を身籠り1人の娘を出産します。
いつでも準備万端だった自分を差し置いて、お手付きとなったばかりか子を成すとは、身内とはいえ神美にとっては立つ瀬がありません。
しかし、先帝はある思いからこの娘を認知せず、宦官制度がまだなかった当時、大宝が医官との不義で生まれた子として処理し、娘と濡れ衣を着せられた医官は後宮から追放されてしまいます。
その後、大宝の娘と医官は子昌のもとに引き取られることに。
先帝の仕打ちで生まれた皇族への恨み
先帝が神美のもとに行かなかった理由は2つありました。
皇族の闇を知った神美
1つは、実は神美の後宮入りは、皇帝の母(女帝)が命じた「子の一族」へのけん制によるものでした。
力を持った豪族が皇族に歯向かわないよう、いわば人質として彼女を後宮に入れたのです。
そのため、皇帝が彼女のもとにおとずれるわけはなく、そんな目的とは彼女も知る由もなかったのです。
2つめは、先帝は絶対権力者の母(女帝)の影響で、成人女性が苦手となり幼女にしか興味を持てなくなったためでした。いわゆる幼女趣味(ロリコン)です。
そのため神美の侍女だった大宝に目を付け、執拗にかわいがったのです。
その後も母の太皇太后は先帝のために後宮に多くの幼女を引き入れます。
神美を含め成人の妃には目もくれず、幼女ばかりに手を付けていたのでした。
のちに事実を知らされ、彼女の今後を心配する子昌によって、一時は後宮を抜け出すようすすめられますが、彼女のプライドがそれを許さなかったのです。
「私は選ばれた女なのだ」と。
下賜(かし)された神美は恨みに
事実を知りながらまわりからの中傷にも耐え、20年近くも後宮にとどまり続けた神美。
とっくに女性としての最盛期は過ぎ、ただないがしろにされただけの彼女のプライドは、ひどく傷つきます。
おそらく生まれてから挫折を経験したことがない彼女にとって、受けた苦しみは想像に難くないでしょう。
さらに神美に追い打ちをかけたのが、当時の部下だった子昌に「下賜」されたことでした。
彼女にとっては存在を否定されたも同じで、後宮で恥辱に耐えてきた彼女の心はこれで完全に歪んでしまいます。
もはや怒りを通り越して根深い恨みとなり、皇族も後宮も国すらも彼女にとっては憎き仇。
ここから神美は復讐の鬼と化し、国のトップを相手に復讐を誓うのです。
戻ってきた神美は「子の一族」を掌握
先帝の言いつけで正妻として迎えた大宝の娘との間に、子昌は1人の娘をもうけます。
当時、「子の一族」の実質的な当主となっていた子昌は、この娘に正統な一族の者に与えられる“子(シ)”の名をつけました。
彼女らは子昌のもとで母子ともに平穏で何不自由ない暮らしを送っていました。
「子翠(シスイ)」と名付けられたその娘は、後宮を追い出された元医官のもとで学び、薬師としての知識を身に付け、当主の息女として生まれ将来を期待されるほどの令嬢に育ちます。
しかし、子昌に下賜され後宮から実家に戻ってきた神美によって、母子の幸せは無惨に打ち砕かれます。
神美は早々に子昌との間に子をもうけ、完全に正妻の座を大宝の娘から奪ったのです。
そればかりか、当主を差し置いて自分が正統な当主だとばかりに一族を支配していく神美。
自分の気に入らない者や従わない者は容赦なく排除し、家人を恐怖で支配し奴隷のように扱う神美に、当主の子昌も逆らえません。
神美(シェンメイ)の餌食となった母子
とりわけ前妻だった大宝の娘とその子(子翠)は、自分を苦しめた元凶である大宝の子孫。
殺しても足りないくらい憎い仇の血を継ぐ2人をさんざんいじめ倒し、その子(子翠)には一族として認めないと、名前まで奪い自分の娘にその名を付けたのです。
やがて大宝の娘は、心労でこの世を去ってしまい、残った義娘は名前を奪われ翠苓(スイレイ)と変えさせ、虐待と恐怖で完全に言いなりとします。
神美の操り人形となった翠苓は、復讐のための捨てゴマとして、目的のため危険な命令を押し付けます。
復讐鬼と化した神美(シェンメイ)の罪
後宮で受けた屈辱や子昌が大宝の娘を娶ったことで、裏切られたと感じた神美は復讐のみに心を支配されます。
それはまるで毒をまき散らすかのように、関わる者すべてをドロドロの負の感情で意のままにあやつっていきます。
名家の誇りなどとうに消え失せ、復讐の鬼と化した神美は権力をかさに、そばに男娼を侍らせ私欲の限りをつくします。
夫・子昌(シショウ)もただの道具
婚約し2人で一族をまとめていくことを誓ったかつての神美の姿はどこにもありません。
現在の子昌の立場をうまく利用し、ただ復讐の道具として夫を動かす彼女に、昔の面影を重ねていたのか、だまって言いなりとなる子昌。
翠苓(スイレイ)は刺客として後宮に送り込まれる
皇族と後宮へ復讐を誓った神美は、皇弟(壬氏)暗殺を企みます。
密かに計画を練り、密輸で拳銃をあつめ着々と準備を進めながら、翠苓には計画実行のために危険を承知で後宮に潜り込ませる神美。
情報収集といくつも事件を誘発させ、攪乱することで不慮の事故に見せかけるよう指示します。
神美の計画は、中祀(祭事)で起きた事故に見せかけて、皇弟を暗殺する手筈となっていたのです。
恐怖で完全に支配されていた翠苓にとって、計画を成功させることが唯一の生きる道でした。
我が子・子翠(シスイ)も操る神美
翠苓と神美の実の子(子翠)は、母のいないところでは仲の良い異母姉妹です。
神美は実の子でも容赦なく厳しくしつけ、思うようにあやつり復讐の道具に使いました。
子翠もまた、母から後宮に忍び込むよう指示され、仮の姿(楼蘭妃として)を隠れみのとし、侍女・子翠として動き回り後宮の深部まで探ろうとします。
義理とは言え、同じ境遇の2人にとって唯一心を許せる関係だったのかもしれません。
復讐に巻き込まれた猫猫と子翠の願い
連続して起きたいくつもの不可解な事件の原因捜査に協力していた猫猫。
現場の状況や被害者から、全てがつながっていて犯人の目的は皇弟暗殺ではと推理します。
見事に予感は的中!間一髪で大怪我を負いながら皇弟を救った猫猫は、犯人をあぶりだそうと状況証拠を整理していると、彼女の頭に1人の人物が思い浮かびます。
「そういえば・・・」
記憶をさかのぼり、それまで翠苓と交わした会話から、首謀者が彼女だと確信した猫猫。
さいわい暗殺は未然に防げたものの、すでに首謀者の翠苓は自害を装い、姿を消していました。
事件からしばらく経ち、ふたたび後宮にあらわれた翠苓に、今度は猫猫が連れ去られてしまいます。
子の一族の隠れ里(アジト)に連れてこられた猫猫は、一族が起こそうとする計画の全貌を知りますが、1人ではどうにもならない。
真の黒幕である神美と対面した猫猫は、口封じのため危うく消されるところを、後宮で仲良くなっていた子翠の機転で「彼女は薬づくりの役に立つ」と、母・神美を言いくるめ命を救います。
子翠の狙いはいったい・・・
壬氏登場!猫猫を奪還
翠苓に連れ去られた猫猫を奪還すべく、猫猫の実の父で軍参謀の羅漢にたきつけられ、禁軍を上げて討伐に乗り出した壬氏(皇弟)。
今度ばかりは許すまじと、子の一族のアジト(砦)に乗り込み夜襲を仕掛けます。
クーデターを画策していたさすがの子の一族も、国のトップを守護する軍力にかなうはずはなく、あっという間に壊滅させられてしまい、無事猫猫の救出に成功した壬氏。
見事に漢を見せた彼に、猫猫からうれしいごほうびが!?
【薬屋のひとりごと】神美(シェンメイ)の最後
黒幕だった神美の最期は、実にみじめであっけないものでした。
自分の復讐のために一族を巻き込み、はたから見れば無謀ともいえる蛮行。
ところが、これまで散々母の復讐に付き合わされ、人生も狂わされた娘(翠苓と子翠)の気持ちは別にありました。
それは国の闇と闘い「子の一族」の誇りを母から救うこと。
従うフリをして、一族の子供たちのために自分たちの命を賭けて、この不幸の連鎖にケリを付けようとしていたのです。
腐っても一族の長として最後は“らしい”姿をみせるのかと期待していた娘も、無様にあらがう母の姿に「まるで小物だものw」と、無念を晴らすかのようにあざける始末。
禁軍の圧倒的な力の前に勢力を失い、娘・楼蘭からも見限られ、ただの復讐の鬼と化した母・神美は、銃をうばい最後まで抵抗をみせましたが、銃が暴発したことであっけなく命を落とすのでした。
そして、娘たちと同じく国にもてあそばれた自分や妻の復讐劇を終わらせるためにあえて手を貸していた子昌も、少しは気が晴れたのか笑顔を浮かべ最期を迎えました。
そして最後になんとか目的を果たせた娘たちですが、翠苓は捕まり、楼蘭はあとを猫猫に託し崖から飛び降り自分で命を絶ちます。
後日談:子昌・翠苓・子翠(楼蘭)と「子の一族」の結末
神美の私怨から国に対しクーデターを起こした子の一族は、砦にこもり禁軍を迎え撃つも、力は歴然であっという間に壊滅しました。
しかし、楼蘭が最後に壬氏にある依頼を残していたのです。
先帝の孫である姉(翆苓)や巻き添えとなった一族や死亡(仮死)した子供たちは、神美の被害者であり無罪としてほしいと。
毒を飲んで命を落とした子供たちは、実は“蘇りの薬”を飲まされ仮死状態となっていたのでした。
楼蘭が全ての罪をかぶる代わりに、彼らを助けてほしいと頼んでいたのです。
結果的に、約束どおり翠苓は罪に問われず、元・淑妃(阿多)の住む別邸で監視されることに。
また、生き返った子供たちは名を変え、猫猫の口利きで緑青館あずかりとなった者、素性を隠し各地で新たな人生を歩む者など壬氏のはからいで罪はないとなったのでした。
さらに、崖から飛び降りた楼蘭は幸運にも生きていたことが後日談の描写で明らかとなっています。
作者いわく、楼蘭は「玉藻(たまも)」と名を変え、他国へ亡命したのだとか。
まとめ:【薬屋のひとりごと】神美(シェンメイ)とは?正体や子昌・子翠・翠苓との関係と最後を解説!
今回は「子の一族」を巻き込み無謀な復讐劇をおこなった神美について、彼女の正体や波乱の人生と最後、そして彼女に振り回された関係者についても解説してみました。
誰もが憧れる恵まれた環境に生まれながら、国(皇族)に人生を狂わされ、後宮で耐えがたい屈辱を味わうことで、なまじ余計なプライドがあだとなり復讐鬼と成り果てた神美。
彼女の悪事を肯定するつもりはありませんが、私怨のために大きく道を踏み外したものの原因を考えると、ある意味では彼女も被害者なのでは?と個人的には感じなくもありません。
果たして彼女をここまで復讐に駆り立てた真の悪とはいったいだれなのか?
悔やまれるのは、あのとき彼女を一途に愛し手を差し伸べた子昌の手を取っていれば、今頃幸せを手に入れていたのかもしれません。
美しき復讐鬼・神美でした。